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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)4677号 判決 1955年2月01日

原告 橋本兼太郎 外一名

被告 宗福寺 外一名

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は被告寺は原告等に対し同被告が東京法務局大森出張所昭和二十五年七月二十日受付第一五二号同出張所昭和二十六年二月二十八日受付第十八号同出張所昭和二十六年三月十二日受付第二〇号を以てなした各寺院変更登記を抹消せよ。

被告伊東は原告に対し同被告が被告寺の代務者でないことを確認する訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、被告寺は東京都大田区馬込町西四丁目二千九百五十八番地に所在する宗教法人令(昭和二十五年十二月二十八日勅令第七百十九号)による曹洞宗所属の寺院にして、その本寺は同町東三丁目所在の万福寺であり、原告等はいずれも被告寺の檀徒総代である。

二、右宗教法人令は宗派の規則を各宗の定めるところに委せ、曹洞宗においては宗憲宗法宗令等の規則を定め、その所属寺院は又それぞれに各寺院規則を定め、なお右の諸規則に定めない事項については、専ら曹洞宗旧来の取扱慣行によつている。

三、被告寺の前住職主管者北越顕高は、昭和二十五年六月二十二日長野県北安曇郡大町所在霊松寺の住職である被告伊東を被告寺住職代務者として任命されたい旨曹洞宗宗務庁に申請し宗務庁は同年同月二十五日管長の名において被告伊東を被告寺住職代務者に任命し、これに基き北越は東京法務局大森出張所昭和二十五年七月二十日受付第一五二号を以て被告伊東が被告寺の代務者に就任した旨の登記をなした。しかしながら被告寺における代務者の任命の申請は、曹洞宗宗法第三百七十三条、第三百九十一条宗令第四百四十二条、被告寺寺院規則第十四条、第十八条、第十九条によつてなさるべきであるところ、北越は何等代務者設置の事由がないのに、自ら病気事故があると称し、右規定によれば、その手続は、被告寺の干与者たる本寺、及び被告寺の法類総代、檀徒総代の同意を得た上、その連署をもつて申請すべく、これが又曹洞宗旧来の慣行でもあるにかかわらず、ほしいまゝに、欠員中の法類総代を急拠法友松瀬賢三をもつて補充した形式をとり、本寺及び被告寺の檀徒総代たる原告等の同意連署を得ることなく、右法類総代のみの連署をもつて前記申請に及んだものにして、かゝる申請に基き前記規定、慣行を看過してなされた前記の代務者任命は無効であり、従つて右登記も亦無効の登記である。

四、次いで北越は、昭和二十六年二月一日被告寺が曹洞宗に所属する旨を規定した被告寺寺院規則第四条等の変更により、被告寺が曹洞宗を離脱し独立寺院になつたと称して、東京法務局大森出張所同年同月二十八日受附第十八号を以てその旨の登記を受けた。しかしながら被告寺寺院規則の変更は、宗教法人令第六条同規則第四十三条により被告寺の檀徒総代の同意を必要とし、原告等が正当な檀徒総代として存在するにも、かゝわらず、北越はほしいままに相模三蔵、大沢竜次郎の両名を檀徒総代に選任し、この仮装檀徒総代の同意を得て右規則変更をなしたものにして、正当な檀徒総代たる原告等の同意なく、従つて右規則変更は無効にして、被告寺が曹洞宗に所属する寺院であることは変りなく右登記は無効な登記である。

五、前記のように被告寺は曹洞宗所属の寺院であるから、その住職は曹洞宗管長より任命さるべきものであるが、北越は昭和二十六年三月五日住職を辞任したところ、その後曹洞宗管長より何人も住職として任命されていない。しかるに被告伊東の娘婿たる横山顕宗は被告寺は独立寺院にして、自己がその住職に就任したと称し、被告寺の主管者として昭和二十六年三月十二日東京法務局大森出張所受附第二〇号を以て主管者就任の登記をしたが、横山は被告寺の主管者でないことは明白であつて右登記は無効の登記である。

六、原告等は檀徒総代として被告寺の主管者の任命、寺院財産の処分等について干与権を有するところ、前記被告伊東の代務者就任並に右各登記は、すべて北越が被告寺を去るに当つて、檀徒総代ばかりでなく、檀徒多数の意に反してほしいまゝにその地位を高価に売却すべく策謀した結果である。よつて原告等は檀徒総代としてこれを排除し、祖先の菩提寺を護持するため、被告寺に対しては前記無効な各登記の抹消を被告伊東に対しては同被告が被告寺の代務者でないことの確認を、求めるため本訴請求に及んだと述べ、

被告等の主張事実に対し、

北越が昭和二十五年七月四日原告等に対し檀徒総代の解任を通知してきたことは認めるが、戸沢徹が昭和二十一年十月三十日檀徒総代に選任されたこと、原告等に檀徒総代として不整の廉があつたことはいずれも否認する。昭和二十五年五月七日に始めて、北越は原告等に対し檀徒総代一名を補充し、戸沢を以てあてることにつき同意を求めてきたので、原告等は即答せず暫くその選任を待つよう北越に申入れておいたところ、北越は同人を総代として取扱い、その同意を得て、前記解任の通知を発したのであつて、戸沢を檀徒総代に選任することについて原告等が同意した事実なく被告寺寺院規則第二十四条によれば、総代は檀徒にして衆望の帰するものにつき、現在総代に諮り、住職これを選任すとあり、戸沢なるものは被告寺の外護をなしたこともなく、被告寺において葬儀を執行したこともなく、檀徒たることさえ疑わしく、まして衆望の帰する筈もなく、同人は北越の妻の兄にあたり、全く北越の傀儡にすぎず、原告等の解任につき同人の同意があつても、それは檀徒総代の同意ではなく何等の効果もない。又原告等が北越の不信任を宗務庁に上申したことは事実であるが、北越が前記の如く、ほしいままに住職の地位を左右すべく、病気と称し、本寺、檀徒総代を無視し、代務者に任命の申請をなす等、寺の平和を攪乱して省みず独善的行為に及んだので、この行為につき上申したものであつて、檀徒総代として当然なすべき責務を果したまでであつて、不整の廉というは該らず、従つて右解任通知は無効であつて、何等効力がない。されば宗務庁においても原告等の提訴に基き、審判の結果、原告等が檀徒総代であつて、大沢、相模両名は檀徒総代でないことを認め、右両名の再審請求も昭和二十七年六月二十日却下され、原告等が檀徒総代であることが確定したのである。

又被告寺寺院規則第二十五条第二項によれば、総代は任期満了後と雖も後任者の就任を見るまでは仍その職務を行うことに定められているから、任期満了により原告等が檀徒総代たる地位を失つたという被告寺の主張は理由がない。

北越は、その地位を高価に売却すべく、まづ被告伊東を代務者とし次いで横山を住職に推挙してきたのであるが、横山は被告寺とは、縁もゆかりもなく、極めて若年にして檀信徒の衆望を集め難い非難があつたにもかゝわらず、横山の住職就任の申請を宗務庁にした。しかし同庁においても北越の処置が余に露骨にして檀信徒の反感が強いため任命を荏苒延引した。そこで北越は伊東と相通じて、自己の信仰を裏切り、曹洞宗を離脱して無宗派に転落しもつて曹洞宗宗務関係の非難を回避することを決意し、檀徒たることさえ疑わしい大沢、相模の両名を仮装檀徒総代に仕立て檀徒の総会に諮ることもなく敢えて寺院規則変更にまで及んだ次第であつて、かゝる変更は、北越一身の意思を以て多数の檀信徒の宗教の自由を蹂躪するものにして、無効であること疑のないところである。原告等が住職推せん権を自己の手中に収めようとして、檀信徒多数の意に反して策謀したが如き事実は全くない。

次に横山が昭和二十六年二月十四日附で曹洞宗管長より被告寺住職に任命された事実はあるが、これは一旦形式上被告寺が曹洞宗を離脱した後であつたので、その任命行為は直ちに取消された。従つてこれを以て、横山が被告寺の住職に就任したことの理由とはなし得ない。

なお、被告等は被告寺においては原告橋本兼太郎に対してその檀徒たるを拒絶したので同原告は以後その檀徒ではないというが、離擅については寺院規則に規定なきにより宗法第五百四十八条により、同条に掲げる事由が存する場合に管長の承認を得てこれをなし得ると解すべきところ、右のような事由もなく、管長の承認があつた事実もない。

と述べた。<立証省略>

被告両名訴訟代理人は原告等の請求を却下する。訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、

一、原告等は後記のとおり被告寺の檀徒総代であつたが、本訴提起当時既に被告寺の檀徒総代たるの地位を失つていたのであり、単なる檀徒は、寺院と信仰上の連繋があるにすぎず、寺院のなした行為につき所謂法律上の利害関係を有するものではないのみならず、原告橋本兼太郎は昭和二十六年十一月二十五日被告寺の檀徒たることを拒絶され、以後その檀徒でさえないのであるから原告等は本訴請求につき原告たる適格を有しない。

二、被告寺は宗教法人法(昭和二十六年四月三日法律第百二十六号)附則第五項、第十一項、第十五項、第十九項に従い昭和二十七年六月一日から同年七月二十二日まで宗教法人宗福寺を設立する旨及び同法人規則を公告し同年八月十日東京都知事に対し右規則の認証を申請し、同知事より昭和二十九年三月二十日右規則の認証を受け、これに基き同年同月二十九日宗教法人宗福寺の設立登記を完了した。よつて同日新宗教法人宗福寺が成立し、被告寺は同法律附則第十八項により解散し、同第十九項により被告寺の登記用紙も閉鎖されるに至り、従つて原告等の本訴請求はその目的、訴訟上の利益が存在しないことになつた。

よつて原告等の本訴請求は却下さるべきである。と述べ、

本案につき原告等の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として原告等主張の請求原因事実に対し、

第一項中、被告寺が東京都大田区馬込町西四丁目二千九百五十八番地に所在する宗教法人令による曹洞宗所属の寺院にして、その本寺が同町東三丁目所在の万福寺であつたこと、原告等がいずれも被告寺の檀徒総代であつたことは認める。

第二項の事実は認める。

第三項中、被告寺前住職主管者北越顕高の申請により、被告伊東が昭和二十五年六月二十五日曹洞宗管長から被告寺住職代務者に任命されて、就任し、これに基き原告等主張の如き登記がなされたこと、被告伊東が当時原告等主張の寺の住職であつたことは認める。

第四項中、北越が相模三蔵、大沢竜次郎の両名を檀徒総代に選任し、これ等の同意を得て昭和二十六年二月一日被告寺寺院規則の変更手続をなし、原告等主張の如き登記をなした事実は認める。

第五項中、北越が住職を辞任したこと、横山顕宗が原告等主張の如き登記をしたことは認める。

その余の事実はすべて否認する。

北越は一身上の都合により昭和二十五年初頃から住職辞任の決意をしたが曹洞宗々規によれば、後任住職を決定せずして辞任することは許されないため、当時神戸市歓喜寺住職の徒弟一等教師横山顕宗を後任に推挙し協賛を求めたところ、当時の檀徒総代たる原告等は住職推せん権を自己の手に収めようと企て、万福寺住職等と共に、元来宗規によれば、後任住職は現任住職の推挙に従うことに確定しており、(宗法第三百六十九条、被告寺寺院規則第十条)、横山に住職として何等欠ける点もないにもかゝわらず、多数檀徒の意思に反して、北越の右推挙を取消させるため、同人を威嚇し、虚構の事実を喧伝し、更に曹洞宗庶務部長に対し不信任陳情書を提出して北越の住職罷免を策謀紛争し、混乱を極めたため北越は神経衰弱症に陥つた。こゝにおいて法類松瀬賢三は、右の実情を曹洞宗宗務庁に告げ、被告伊東を代務者として申請し前記のように昭和二十五年六月二十五日被告伊東は管長の任命により代務者に就任し、以後就任の趣旨に則り、紛争を円満に解決し、住職の後任住職推せん権を擁護しかつ寺務、境内伽藍を整備することに努力してきたのであつて、被告伊東の代務者就任は、北越の病気のため、正当な手続により管長より任命されたものであるから、これを無効とすべき理由はない。

又被告寺寺院規則第二十六条には、檀徒総代にしてその職務の執行につき不整の廉があつたときは他の檀徒総代の同意を得てこれを解任することができる旨を規定してあつた。しかるに原告等は住職の専権に属する後任住職の推せん権を自己の手に収めんと企て多数檀徒の意思に反し、前記のような行為をなした外、なお檀徒の参詣を阻害し、寺務を妨害したのであつて、これはまさに右規定にいう不整の廉に該当するを以て、北越は他の檀徒総代戸沢徹の同意を得て昭和二十五年七月四日附で原告等を解任し、宗規に従いその旨を宗務庁に届出、同庁もこれを承認し、原告等は以後檀徒総代ではなくなつたものである。そこで北越は多数檀徒の承認のもとに、相模三蔵、大沢竜次郎を檀徒総代に選任し、昭和二十六年二月一日前記寺院規則の変更手続をとつたものであり、殊に原告等の任期は昭和二十五年十月三十日を以て満了し他の檀徒総代の任設があつたのであるから、この点からみても右規則変更は原告等主張の如き不法不備は毫も存せず、適法になされたものにして、戸沢徹は、昭和十五年二月七日父の葬儀を被告寺において執行し、被告寺境内に墓碑も存在し、被告寺の外護に大いに尽力せる檀徒にして、同人は北越より昭和二十一年十月三十日原告等の承認を得て檀徒総代に選任せられたものであつて、同人が当時檀徒総代たる地位にあつたことは明白である。

更に北越の推挙に基き曹洞宗管長は横山顕宗を適任と認め、同人を昭和二十六年二月十四日附で被告寺住職に任命したのであるが、これも亦檀徒総代は勿論、多数檀徒の支持するところであつたけれども、唯時恰も被告寺は曹洞宗を離脱し、独立寺院となつたので、更にその寺院規則に従い横山は被告寺の住職に就任したものであつて、その就任登記も亦正当である。

被告寺は上記の如く曹洞宗を離脱したけれども改宗したものではなく同宗の教義を信奉する点においては従前と変りなく、単に宗派の行政圏よりの離脱にすぎず、しかもこれは檀信徒多数の意見に合致するところであつた。唯原告等の如く信仰の自由、寺院の教化を妨げる者があつたため、止むなくかゝる措置をとつたのであつて、北越がその地位をほしいまゝにするべく策謀したような事実なく、原告等の本訴請求は失当であると述べ、

なお原告等の主張する曹洞宗宗務局における審判決定につき、右決定は利害関係人を審問することなき不当の審判なるのみならず、被告寺が曹洞宗を離脱した後になされたものであるから被告寺に対し何等の効力もない。又宗法第二百二十三条宗憲第十八条の規定に従えば、寺院檀徒総代の資格に関する争の如きは同所において審判すべき事項に非ず、管長の権限に属するものなるところ原告等の総代解任の届出は管長においてこれを承認受理し何等異議のなかつたものであると附言した。<立証省略>

理由

被告寺が東京都大田区馬込町西四丁目二千九百五十八番地に所在する宗教法人令(昭和二十年十二月二十八日勅令第七百十九号)による曹洞宗所属の寺院であつたことは当事者間に争なく宗教法人法(昭和二十六年四月三日法律第百二十六号)の施行に伴い、横山顕宗が自己が被告寺の主管者住職であるとして、被告寺を同法による宗教法人たらしめるべく、同法附則第五項により昭和二十七年八月十日附で東京都知事に対し、新宗教法人宗福寺の規則の認証を申請し、東京都知事は昭和二十九年三月二十日附で、右規則を認証し同年同月二十九日新宗教法人宗福寺設立の登記がなされたことは成立に争のない乙第十五、第十六号証によつてこれを認めるに足りる。そこでこれにより新宗教法人宗福寺が成立したとすれば、同法附則第十八項により、被告寺は解散し、清算の要なく、解散と同時に全く消滅する訳であるが、原告等が主張するように当時横山顕宗が被告寺の主管者住職の地位になかつたとすれば、たとえ東京都知事の前記認証があつたにしても、これにより新宗教法人宗福寺は成立せず、被告寺の存否に対し何等影響を及ぼすものではないといわねばならない。しかしながら、右の如く新宗教法人宗福寺の設立登記が被告寺の存否に影響しないとしても、宗教法人法は、その施行された日である昭和二十六年四月三日に、現に存在する宗教法人令による宗教法人は、同日から一年六月以内に同法附則第五項又は第六項により宗教法人法による新宗教法人となるべく、規則を作成し、その規則の認証を所轄庁に申請しなかつたときは、右一年六月の期間の満了の日において、その日前に解散したものを除いて解散すると規定している(同法附則第十五項第十七項)ところ、原告等は権限ある者によつて、被告寺から右期間内に新宗教法人の規則の認証の申請が東京都知事に対しなされたことは何等主張しないから、被告寺が依然宗教法人令による宗教法人として存続するといつても、被告寺は前記期間の満了の日において既に解散し、以後その本来の目的遂行のための積極的活動はこれをなし得ずたゞその財産関係を清算する範囲において、所謂清算法人として存続するにすぎないというべく然らば被告寺には、その本来の目的遂行のための積極的活動に関する機関である主管者代務者なるものは存在し得ず、これに代るものとして、清算人が存在すべき状態にあるのであるから、原告等主張の如き、事由により、本来被告伊東の代務者就任、横山顕宗の主管者就任が無効であつたとしても、これを理由として被告伊東に対し、同被告が被告寺の代務者でないことの確認を求める請求も、被告寺に対し、被告伊東が、被告寺の代務者に就任した旨の登記横山が被告寺の主管者に就任した旨の登記の各抹消を求める請求も、既にこの点において法律上の利益を欠く請求として棄却を免れない。

次に、被告寺に対する東京法務局大森出張所昭和二十六年二月二十八日受附第十八号を以てなされた登記の抹消を求める請求につき按ずるに、北越顕高が、被告寺の寺院規則を変更し、被告寺を曹洞宗から離脱せしめた手続が原告等主張のように、被告寺の正当な檀徒総代の同意を欠くものとすると、右寺院規則の変更は無効であり、従つて右登記は事実に反する不当な登記にして、その必要がある場合においては、宗教法人令施行規則(昭和二十年十二月二十八日司法、文部省令)第二十一条によつて準用される非訟事件手続法第百四十八条の二又は第百五十一条の二の規定により、申請又は職権により抹消せらるべきであるということができるけれども、前記施行規則によれば宗教法人令による寺院の登記は一般に、主管者、代務者又は清算人の申請によつてなされ、寺院の登記した事項中に変更を生じた場合その登記は、主管者、代務者又は清算人の申請によつてこれをなすべきものである(第十一条、第十六条)から該登記の抹消の申請も亦、主管者、代務者又は清算人よりこれをなすべく、従つて本件の場合非訟事件手続法第百四十八条の二の規定により抹消の申請をすることができる同規定に謂う「当事者」とはこれ等の者を指称し、被告寺自体が抹消申請人となるものではないと解せられるから、東京法務局大森出張所昭和二十六年二月二十八日受附第十八号を以てなされた登記が原告等が主張するように不当になされたものであり、かつ前記のとおり、被告寺が清算法人としてなお存続しているとしてもこれを抹消すべき義務が被告寺にあるということはできない。従つて被告寺にかゝる義務があるとして、その抹消を求める請求は他の点について判断を進めるまでもなく理由なしとして棄却すべきである。

よつて原告等の本訴請求をすべて棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条、第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福島逸雄 伊東秀郎 園田治)

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